食糧危機はある日突然やってくる

レスター・ブラウン氏は、
ワールド・ウォッチ研究所の創設者で、
早くから大量消費社会に警告を鳴らしている。


レスター・ブラウン氏の著書
「フード・セキュリティー
 〜だれが世界を養うのか〜」
(ワールドウォッチジャパン)
の中に、かなりショッキングなくだりがある。
2004年に、それまで穀物供給国であった中国が
食物輸入国に転じたという事実だ。
インドでも同様の動きが起これば、
世界で、いったい誰が穀物を作るというのか。


伊藤忠商事会長の丹羽宇一郎氏は、
次のように語っている。

本当に突然、来るもんなんだよ。
食の危機というものは。
晴れている時は、雨雲がどこにあるかなんて、
誰も気に留めようとしない。
嵐が来たらどうするかなんて考えない。
でも、嵐が来てから慌ててももう遅い。
そんな事態に見舞われたことが、
日本には、あったはずなのに・・・。

丹羽会長が指摘している事件は、
1973年6月27日に起こった
「大豆輸出禁止措置」のことだ。
当時の米大統領ニクソンは、
異常気象による大豆不作の対策として、
国として食糧を囲い込むという手を打った。


丹羽会長は、米国駐在員として、
大豆などの買い付けを担当していたそうだが、
完全に寝耳に水の発表だったそうだ。
確かに、世界的に大豆価格は高騰していたが、
このような強攻策が発動されるような兆候は、
全く、どこにもなかったというのである。


大豆が入ってこなければ、当然、
日本国内の大豆製品が影響を受ける。
1972年に1丁39円だった豆腐の価格は、
73年9月7日に
輸出禁止が解除になった後も上昇を続け、
1丁70円と2倍弱に跳ね上がったそうだ。
また、禁輸前後の1年で、
納豆の価格は9割、味噌は6割上昇。
これが、ある日突然やってくる
食糧危機の実態である。


最近では、格差社会などと言われているが、
もし、深刻な食糧危機が発生したら、
生死を分ける格差になりかねない。
日本には、その備えがあるのだろうか。


農水省「食糧需給表」によると、
2005年度の日本のカロリーベースの食糧自給率
40%だそうだ。
ちなみに、1965年の同数値が73%だから、
半分近くまで自給率が落ちている計算になる。
米を除いて、ほとんどの食糧を
海外からの輸入に頼っているのが現状だ。


一方で、世界の食物を食い尽くす
巨大な胃袋である中国が、
食べ物を飲み込みはじめている。
経済発展に伴い、菜食中心から肉食中心へと
食のスタイルが変化しているのも気になるところ。
特に牛肉に対する中国人のイメージが
変わってきており、
中国都市部に住む富裕層は、
霜降り肉などの高級食材に惜しみもなく
お金を払うようになってきた。
牛肉1kgの生産に必要な飼料は、
豚肉の2倍、鶏肉の4倍だとか・・・。
これまで以上に、中国の穀物輸入が加速するのは、
火を見るより明らかだ。


その上、環境破壊が進み、
異常気象や慢性的な水不足による土壌の劣化や砂漠化で、
穀物の収穫量は、年々減ってきている。
自分の国で食べる食糧がなくなりそうな時、
どこの国が食べ物を分けてくれるというのか。


話は変わるが、この間、NHKで、
高齢化が進む農村で、働き手がいないため、
田んぼや畑が荒れていく現状を報道していた。
若者は、農家をいやがるという。
それは、仕事がきつい上に収入が安定しないため。
農業の生産性が低いのは、農家一戸当たりの
耕地面積が小さいことに原因がある。
米国の178.4ヘクタール、
フランスの45.3ヘクタールに比べ、
日本では、1.3ヘクタールにすぎない。
これでは、食べていくのが難しい。


若い人が職業として、農業を選ぶための工夫が
絶対に必要だ。
たとえば、「地産地消」という言葉があるが、
地元で作ったものを、
地元で消費してもらうビジネスモデルを
企業とともに模索してくというのは
1つのアイディアかもしれない。


そんなビジネスモデルを実践している企業がある。
福岡県板垣町に本拠地を構える「グラノ24K」
がそれである。
地元の農家や漁師と契約して、
無農薬野菜や旬の魚を仕入れ、
新鮮な食材を使って料理を提供する
「野の葡萄」というレストランを運営する企業である。
このレストランではブッフェスタイルを取っており、
80種類の料理を1600円前後という
お手ごろな価格で楽しむことができる。


グラノ24Kは、
東京や大阪など6都府県にまたがって、
他店舗展開しながら、進出先の地域ごとに
地産地消」を実践している。
東京丸の内にもお店があるが、
ここで使われる食材は、
もちろん東京近郊で収穫されたものである。


グラノ24Kは、地元の契約農家から、
作物を安定的に買い取ってくれる。
品質や安全に問題がなければ、形が悪くても、
サイズが小さい規格外作物でも買い取ってくれる。
これなら、
農家も安心して無農薬栽培を行うことができる。


ちょっと、ビジネス心を働かせてみれば、
消費者の安全な食へのニーズは増えているため、
「食育」を交えたマーケティングをうてば、
もう少し高い価格設定でもいけるのではと思う。
そうすれば、農家からもっと高い値段で作物を
買い取ることができる。
これだけ、食の汚染が進んだ今となっては、
安全な食材は、高付加価値商品なのだ。


日本の食を守るのは、
地方の力、地場の力だと思う。
豊かな自然が何ものにも変えがたい
強力な武器なのだ。
アイディアが必要ならば、公募というのも
1つの手段かもしれない。


稲取温泉観光協会事務局長公募に1281通もの
応募があったという。
「年収700万円、成功報酬100万円、
庭付き1戸建て無償提供」
という好条件に飛びついたという側面も否定できないが、
この試みがうまくいけば、
よい成功事例となる。


国はあてにならないので、
自分たちができることから始めなければと、
真剣に考える今日この頃である。