平均気温が6.4℃上昇したら

国連の気候変動に関する政府間パネルIPCC)は、
今世紀末の地球の平均気温が、
20世紀に比べて最大6.4℃上昇するとの
予想をまとめた。


もし、平均気温が6.4℃上昇したら、
旱ばつによる水不足、洪水や暴風雨の被害拡大、
森林火災、サンゴの白化現象など
様々な被害が予想されるが、
感染症の拡大も大きな問題の1つである。


感染症の問題で、特に深刻なのが、
ハマダラ蚊の媒介するマラリアである。
世界では、年間3億人がマラリアを発症し、
100万人以上の人が命を落としている。
大部分はアフリカで発生し、アフリカでは、
30秒に1人の割合で子供が犠牲になっているという。


温暖化に伴い、このハマダラ蚊が
日本でも生息するようになれば、
私達もマラリアの危険にさらされることになる。


ところで、アフリカのマラリア対策に、
住友化学が一役買っていることをご存知だろうか。
住友化学は、蚊帳となる糸の原料となる樹脂に、
防虫剤を織り込んだ「オリセットネット」
という製品を開発した。
このオリセットネットは、洗濯しても、
効果が長期間持続するという特徴を持っている。


住友化学は、このオリセットネットを
無償供与することによって、
アフリカにおけるマラリアの発生率を確実に
減少させてきた。


オリセットネットの効果が広く知れ渡るようになると、
現地生産能力を増強する運びとなった。
現地メーカーとの合弁会社による
新規工場の建設などにより、
現地では、多くの新規雇用が見込まれ、
周辺地域の経済活性化にも貢献できるとしている。


オリセットネットは、公共衛生には有効だが、
非常に市場が限られた商品なので、
商売としては成り立たない。
そこで、住友化学は、この技術をアフリカに
委譲することに同意したのだ。
これぞまさに、社会貢献である。


戦後の日本は、物質的に大変豊かな国となった。
格差社会が拡大したと言われてはいるが、
アフリカなどで極限の貧困にさらされている人たちのように
人間としての生存、生活、尊厳を脅かされて日本人は、
虐待やDV(ドメスティック・バイオレンス)などを除いて
それほど多くはないと思う。
格差はあろうとも、多くの人は自力で、
お金を稼ぐチャンスはある。


日本のような恵まれた環境にあるものは、
もてる能力を十分に発揮して、富を創造し、
「人間の安全保障」が守られていない国に
還元するのが務めなのだと思う。


テロリストを生み出す本質的な原因は、
「貧困問題」だと言われている。
どこかの国のように「国家の安全」を錦の御旗に、
力でテロ組織を押さえ込もうとしても、
根本的な問題解決にはならない。


温暖化や環境破壊が進めば、
「貧困問題」はより深刻な局面を迎えることになる。
お金のあるもののみが、
食糧や水や医療を手に入れることになり、
お金を持たないものは、
生命の危機に直面することになる。
新しい強力な武器を開発して、力を誇示することに
お金を使うより、もっと大切な使い方があるはずだ。


多くの方は、ご存知ないかもしれないが、
実は、日本政府は、アフリカの貧困解消に
積極的に取り組んでいる。
2000年からスタートした
「ミレニアム・ビレッジ・プロジェクト」だ。
この取り組みは、住民5万人程度の農村を一単位として
食糧生産や感染症対策、飲料水や電力の確保、
道路整備といったライフライン
インフラ整備のために5年間で
2000万ドル(約23億6000万円)を拠出した。


これが呼び水となり、民間の支援団体や
志に賛同する個人から1億ドル(約118億円)が集まった。


その結果1年で目覚まし成果をあげたという。
その成果は、以下の通り。
1.農業指導により食糧生産が飛躍的に増えた。
2.マラリア発生率が下がった。
3.村に診療所が建設、運営された。
4.飲料水の給水所が建設、維持された。
5.学校教育の定着。
6.電気、道路の整備によりインターネットの利用も可能に。


ライフラインが整備されれば、人間は自活のための
経済活動を行うことができる。
生存の危機という制約から逃れることができれば、
自分の持てる能力を発揮して
富を生み出すことができるようになるのだ。
人の命を奪う高価な武器を製造するより
このようなプロジェクトにお金を使う方がどれだけ
有効か、考えるまでもない。


戦争で、富を得る人がいる限り、
世界で争いがなくなることは決してないと思うが、
温暖化、環境破壊という人類共通の危機を前にして、
多くの人の意識が変わりつつあることは、
間違いないと思う。