黄色いダイヤ

エコノミスト6月26日号の特集は、「穀物バブル」。
これを読んでいると、トウモロコシやサトウキビを原料とする
バイオエタノール大増産計画が、世界の食糧事情に
大変大きな影響を与え始めていることがよくわかる。


この現象の発端となったのは、ブッシュ米大統領が、
今年1月に行った一般教書演説である。
この演説においてブッシュ大統領は、
2017年までに、トウモロコシを中心とするバイオ燃料
現在の50億ガロン(1ガロン=3.79リットル)から
350億ガロンへと7倍に増やすと宣言した。


1ガロンのエタノールを精製するのに必要なトウモコロシは、
0.35ブッシェルである。
350億ガロンでは、122億ブッシェルとなる。
2008年度の米国におけるトウモロコシの生産見通しは、
125億ブッシェルと予測されているので、
今後、食用を含めてすべてのトウモロコシを
エタノールに振り向けても、
賄えるかどうかという数字である。
いったい、ブッシュ大統領は何を考えているのか・・・。


ところで、ここで、クイズを出してみたい。
「スポーツタイプ多目的車(SUV)の燃料タンクは、
25ガロン(約95リットル)であるが、
この燃料タンクをバイオエタノールで満タンにしようすれば、
450ポンド(204キロ)のトウモコロシが必要になる。
このトウモロコシを人間1人当たりの食料にすると
何日分のカロリーに匹敵するか」


答えは、1年分。
車1台を走らせるために、人間1年分の食糧が
使われることになるのだ。
バイオエタノールの大増産計画は、
本当に環境対策の切り札なのだろうか。


それにしても、環境問題に対して、
ほとんど無関心に等しい姿勢をとっていたブッシュ大統領が、
なぜ突然、地球温暖化問題に積極的に
関与するようになったのだろう。


それは、イラク問題で失点を重ねた窮地を
脱するためというのが大方の見方である。


米国は世界のトウモロコシ生産の4割強、
輸出量の7割近くを占める「トウモロコシ大国」である。
バイオエタノール大増産計画を推進することで、
トウモロコシ価格をはじめ、農産物が値上がりすれば、
農家および農業関係者に大きな恩恵がある。
それによって、農業関連業界の支持を取り付けようとしている
と考えられる。


イラク戦争の背景には、石油の利権問題があった。
バイオエタノールの増産は、
情勢不安定な中東のエネルギー依存からの
脱却につながる政策で、国家安全保障上、大きな意味がある。
また、トウモロコシを「黄色いダイヤ」に仕立て上げることは、
「トウモロコシ大国」米国の国益誘導につながるのだ。


さらに、バイオエタノールの大増産計画は、
地球温暖化対策の切り札という羊の皮をかぶっている。
「地球に優しいエネルギーなのだから」
というまくら言葉がつけば、反対を唱える道理はない。
現状では、バイオエタノールの弊害を唱える
真の環境保護論者が、逆に槍玉にあげられている。
政治家も、投資家もこの羊の皮をかぶった
バイオエタノールに便乗して、
その恩恵に預かろうとしている。
世界一の大金持ち、ビル・ゲイツ
バイオエタノール関連会社に投資しているという。
環境問題は、人類存亡の危機をかけた重大問題なのに、
やはり、その裏側には、お金と権力が
うずまいているということか・・・。


それにしても、世界的な穀物価格高騰の兆しは、
食糧自給率の低い日本にとって、大変心配な問題である。
次の数字を見て頂きたい。
これは、農林水産省が公表している
2003年の世界の食糧自給率の数字である。


オーストラリア 237%
カナダ     145%
米国      128%
フランス    122%
スペイン     89%
ドイツ      84%
英国       70%
イタリア     62%
スイス      49%
日本       40%


この数字を見ておわかりの通り、日本の食糧自給率は、
先進国中で最低の水準にある。
日本の食糧自給率は、過去40年間右肩下がりで、
低下してきた。


温暖化の影響が広がっていくと、今後ますます、
穀物の収穫量が減っていくことが予想される。
事態が深刻化した場合、
自分の国が食糧危機に直面している時に、
どこの国が食糧を分けてくれるというのか。
日本の食糧自給率を上げることは、
今すぐにでも取り組まなければならない大問題なのである。


今、世の中は年金問題一色である。
今度の参院選の争点もこの年金問題一色なのだろう。
もちろん、年金問題も大変深刻な問題であることは
否定の余地なしだが、
目先の混乱ばかりに目を向けていると、
もっと大きくて、もっと深刻な問題を
見落としてしまう可能性がある。
日本の農業、畜産業をどうしていくのか、
もっと真剣に議論する必要があるのではないか。