バター騒動に思う

ずいぶんと間が空いてしまったが、
久しぶりにブログをアップしてみた。


最近、食品価格の高騰や品不足が気になっている。
ついこの間も、バターの品不足が深刻化し、
国が乳業大手各社に異例のバター増産を要請した。


家庭用バター不足の原因は、オーストラリアの干ばつで、
乳用牛用の飼料が高騰したこと、
新興国の食生活の変化でバターの需要が拡大したことなどが重なり、
輸入バターの価格が高騰し、
業務用バターの調達が困難になった料飲店などが、
家庭用バターの購入に走ったためである。


しかし、この話には伏線がある。
日本では、2006年、酪農団体のホクレン農業協同組合連合会が、
生産過剰を理由にバターの原料となる生乳を廃棄している。
さらに、乳用牛では生計を立てられなくなった畜産農家が、
廃業もしくは食用牛への転換を進めたため、
この時点で、国産バターは減産に転じていたのである。
酪農家ばかりでなく、農家でも同様の現象が起こっており、
日本の食糧自給率は、下がる一方となっている。
今回のバター騒動は、輸入食品にたよる日本の食料生産の脆弱性
現実のものとなった事態なのだ。


話をバターに戻すが、増産要請は出されたものの、
乳業大手各社は、実際のところ、酪農団体からどの程度の生乳を
調達できるかは不透明で、増産には不安があるらしい。
そのため、当面は、チーズ生産のために調達した生乳を
バター用に振り替えて、対応するとのこと。
今度は、チーズがスーパーの棚から消えるかもしれない。


世界に目を向けると、もっと悲惨なことになっている。
食品価格の高騰が、世界に10億人いるといわれている
1日1ドル(約100円)以下で生活している
貧困層の生活を直撃しているのだ。


アフリカでは昨年11月、食料不足が原因で、
モーリタニア全土で暴動が発生。
今年に入ってからは、モザンビークカメルーン
コートジボワールセネガルなどに暴動が拡大している。


中米のハイチでは、国連平和維持活動(PKO)の
ナイジェリア人警官が、食料を狙った暴徒に襲われて、
車から引きずり出され、虐殺されるという事件が起こっている。


食品価格高騰には、いろいろな要因があるが、
元をたどっていくと、米国の影響によるところが大きい。


まずは、サブプライム問題の発生で、
世界の株式、債券市場から流出した投機的な資金が、
原油・金・穀物などの商品市場に逃げ込んだために、
実需を伴わないバーチャルな形で、
穀物価格の値段を押し上げたことがあげられる。
さらに原油の高騰が、食品の輸送価格を押し上げたことも、
原因の1つとなっている。


米国の金融機関は、サブプライムおよびその関連商品で、
一次は莫大な利益を得ており、
その利益獲得に貢献した立役者の面々は、法外な収入を先取りして、
今や、悠々自適の生活を送っている者もいるという。
サブプライム問題は、本来ならばお金を貸してはならない相手に
金融機関が貸付を行ったために発生した問題であり、
ある意味、一種の詐欺行為だ。
しかし、そのツケを払っているのは、
サブプライムで私腹を肥やした関係者ではなく、
実体経済が悪化することで職を失った労働者や
原油高・食料高で生活費を圧迫されている貧困層なのである。
なんとも、腹立たしい話である。


もう1つの原因は、ブッシュ大統領が打ち出した
バイオエタノールの大増産政策だ。
トウモロコシやサトウキビなど、本来は食用の穀物が、
バイオ燃料生産に利用されたため、
食料用の穀物の作付け面積が減少し、
食料不足を引き起こし、食料価格の高騰を招いたのである。


このような現実を危惧したEU、南アフリカ共和国、中国などでは、
バイオ燃料の原料に食用の穀物を使わない方針を決定している。
しかし、当事者であるブッシュ大統領は、
「米国農家がバイオ燃料の原料を生産することは国家の利益」として、
推進政策を続ける考えを強調している。
米国の庭であるハイチで食料を巡る暴動が起こっているのに、
この発言は解せない。
この暴動が拡大すれば、米国にも大量のボードピープルが押し寄せ、
混乱を招く可能性が高いのに、いったい何を考えているのだろうか。


今回の食品価格の高騰は、
環境異変や新興国の人口増加が招いたものというより、
人災の色合いが強いように思う。
東西冷戦が米国の勝利に終わった瞬間から、
米国が提唱する金融資本主義という価値感が、
グローバルスタンダードとして広く世界を席巻している。
しかし、金融資本主義は、多くの貧困層の犠牲の上に、
ほんの一握りの人間だけが幸福を手にする欠陥の多いシステムである。
今回のサブプライム問題やそれに伴う様々な問題を見ていると
金融資本主義は、アメリカが一人勝ちするための
アメリカンスタンダート以外のなにものでもないと
強く思わざるを得ない。