野菜工場

この間、「がっちりマンデー」で、
キューピーを特集していた。
今や、マヨネーズの会社は、
マヨネーズだけを作っているわけではないそうだ。


おもしろかったのは、タマゴの研究。
「とろっと名人 ひらけオムレツ」
という商品はすごい。
かちかちに凍った冷凍のオムレツを
お湯で温めること10分。
用意したチキンライスの上に乗せて、
オムレツを開いてみると、
中からとろとろっと半熟の中身が・・・。


私は、このタイプのオムライスに
ある種のあこがれを持っている。
伊丹十三監督の「たんぽぽ」という映画で、
グルメのホームレスが、
レストランの厨房に忍び込み、
あざやかな手付きでオムライスを作るのだが、
そのオムライスには、まさに、
このとろとろっという
オムレツがのっているのだ。
あの印象は強烈だった。
それ以来ずっと
とろとろタイプのオムライスに
あこがれているのである。


このとろとろのオムレツを、
冷凍食品で再現するなんて、
キューピーやるなあと感心。


しかし、感心できない話題もあった。
野菜工場の話である。
マヨネーズやドレッシングの販売が伸びるには、
野菜の販売が伸びることが条件。
ということで、
野菜を作ろうという発想はいいのだが、
なぜ、野菜工場なのだろう。


この野菜工場は、
『TSファーム』と名付けられている。
TSは、トライアングルスプレーの略である。
この工場では、土を一切使用せず、
また空間の有効利用のために、
三角のパネルに野菜を植えて、
そのパネルを立てて栽培している。
さらに、
この三角パネルに植えられた野菜の
むきだしの根っこに
液肥を霧吹きのように噴霧する。
だから、
トライアングルスプレーなのだそうだ。


太陽光は一切遮断。
高圧ナトリウムランプを使い、
人工的に昼と夜を作り出す。
収穫期間は短く、
路地ものの野菜の1/3の周期で
栽培が可能なのだそうだ。


この野菜は、虫もつかず、
農薬も使っていないため洗わなくても食べられる。


問題点は、価格の高さだ。
リーフレタスの場合、
小売り価格は季節によって、
ハウスや露地ものの3割増しから2倍程度に
なることもある。
また、食感にも問題がある。
柔らかすぎたり、
独特の苦味に欠けるものがあるなど、
やはり、野菜本来が持っている『何か』を
失っているようだ。


それでも、
この工場野菜は重宝されている。
天候にまったく左右されない
安定した品質と価格で
レストランや惣菜店
ハンバーガーチェーンなどから
引く手あまたなのだとか。


出荷先は外食産業向けや業務用が主だが、
一部、
高級スーパーでも売られているらしい。
利用されている方には申し訳ないが、
私は、個人的には、
高いお金を払って、
この得体の知れない物体を食べる気はない。


私は生きた食べ物は、
生きた土地でしか作れないと思っている。
微生物が作り出した豊かな土壌で、
たっぷりの太陽を浴びて育った野菜は、
野菜独特の良い香りがする。
これは、野菜が生きている証拠。
たっぷりのエネルギーを宿した
生きている食べ物である証拠なのだ。
独特の香りを持っていない工場野菜は、
外見は野菜であるけれど、
すでに「生命力」を失った
何か違ったものになってしまっているのだと思う。


太陽光を浴びていない野菜は、
ビタミンA・C・Eなどのビタミン類や
フラボノイド、イソフラボンカテキンなどの
抗酸化物質の含有量が少ないという。
太陽の紫外線は、
地上の動植物に強いフリーラジカルを受けさせ、
酸化を促進させるので、
野菜は自らの身を守るために
抗酸化物質を大量に作り出す仕組みを
持っているのだそうだ。
太陽に当たらなければ、
抗酸化物質の含有量が減るのは当たり前。


シェーンハイマーの
動的平衡」に当てはめて考えてみれば、
野菜工場のロジックは、
不自然である。
牛を効率的に飼育するため、
牛が本来食べることのない
高たんぱく食(肉骨粉)を与えることや
遺伝子組み換えの大豆を生産するロジックと
大差はない。

青山学院大学理工学部化学・生命科学科教授の
福岡伸一氏は、
「動的な平衡系には部分のロジックは通用しない」
と述べている。
その部分だけ見れば、
ロジックは完結しているように見えるが、
すべてのものは循環しているのだから、
その不自然な“部分のロジック”の歪が、
何か別の形で、リベンジを開始するようになる。


さらに、
「循環を堰き止めたり、
食物連鎖のような循環の順序を
組替えたりする行為は、
バランスをとって存在している
動的な平衡に干渉すること、
別の言い方をすれば、
平衡を無理やり別の方向へ変えることである。」
とも言っている。


野菜工場のように効率を求め、
自然の野菜の収穫周期を人口的に早める行為には、
必ず余分なエネルギーの投入があり、
そこに平衡の不均衡が生じる。
この影響は、すぐには目に見えない。
BSEがよい例である。


そんなことを考えると、
野菜工場で作られた野菜は、
できることなら口にしたくないと
考えてしまうのである。