病気にならない生き方

2006年単行本ノンフィクション(トーハン調べ)
による年間ベストセラーに輝いた本は、
「病気にならない生き方」
(新谷弘実 サンマーク出版
である。
著者の新谷博士は、
米国アルバート・アインシュタイン医科大学外科教授で、
日米でおよそ30万例以上の胃腸を診てきた
胃腸内視鏡外科の世界的な権威である。


医者は普通、薬や手術で病気を治そうとする。
なにか症状がでたときに、
その症状を緩和する、あるいは取り除くために、
治療をするのだ。
しかし、自身が医者である新谷博士は、
少し変わっている。
『薬はすべて基本的に「毒」である』
と主張する。
また、病気にならないように、
正しい食事と正しい生活習慣が大切であると説く。


穿ったものの見方ではあるが、
医者は、患者が病気にならなければ、
商売にならない。
だから、病気にならない方法を説くことには、
あまり熱心ではないのが普通だ。
やはり、新谷博士はちょっと変わっている。


さらに、新谷博士は、
大腸内視鏡によるポリープ切除という
世界でただ一人の技術を持つ、
時代の先端を行く医者でありながら、
ホリスティックな医療を重視している。
ホリスティック医療とは、
病気を単なる部分の不具合と考えるのではなく、
心と体で一体ととらえ、
その全体を根治しようという考え方である。


最先端の技術を持つ医師の多くは、
ホリスティックな生命観とは対極に位置する
機械的生命観に立っている人が多いように思う。
つまり、身体のシステムはすべて、
機能を分担した部品に分解できて、
ある部品に故障が生じれば、
その部分を治療すればよいという考え方である。


これは、西洋医療の発想で、
日本ではまさに、
この西洋医療が中心である。
壊れたら治せばよいと考えるから、
なぜ壊れたのかということを
あまり考えない。
だから、正しい食事や正しい生活習慣を
指導することは、
医者の仕事ではないと思っている人が
たくさんいるのだろう。


医療の最前線で働く新谷博士のような医者が、
常識と考えられている健康法に潜むうそや
危険な食べ物について語ってくれるのは、
大変貴重な意見といえる。


新谷博士の考えは、
30万例という胃腸検査の臨床結果に基づいている。
「健康な人の胃腸は美しく、
不健康な人の胃腸は美しくない」
このシンプルな結果に基づき、
どんな食生活、どんな生活習慣を選択すると、
美しい胃腸になるのかを教えてくれているのだ。


新谷博士は、
「常識を信じていると危ない!」
という。
私たちは、こんな健康法を信じている。
・ヨーグルトは腸によい
・牛乳でカルシウムを補う
・果物は太りやすい
・ごはんやパンは炭水化物を多く含むので太る
・高タンパク低カロリーの食事がよい
・水分はカテキンの豊富な日本茶でとる
しかし、新谷博士に言わせると、
これらはすべて、
胃や腸によろしくない健康法なのだそうだ。


ではなぜ、胃・腸によくない健康法がよいと
認識されているのか。
それはその食物に含まれる
1つの成分の効能
しか見ていないからだと博士は指摘する。
まさに、現在の健康番組の問題点をついている。


また、特定の団体、企業、個人の利害にからんで、
根拠のない常識を常識と思いこまされているケースもある。
よい例が牛乳だ。
詳細については、
また日を改めて説明したいと思う。


1つの成分の効能にのみ注目するという傾向は、
根強い機械的生命観から生ずるものではないか。
食物もまた、生命のパーツを維持するための
薬か燃料のようにとらえられているのではないか。


人間の体は、もっと神秘的なものである。
青山学院大学理工学部化学・生命科学科教授である
福岡伸一氏の著書「ロハスの思考」(ソトコト新書)
に大変興味深い指摘がある。
少々長いが引用してみる。

私たちの生命を構成している分子は、
プラモデルのような静的なパーツではなく、
例外なく絶え間ない分解と再構成のダイナミズムの中にある
という画期的な大発見がこのときなされたのだった。
まったくの比喩ではなく、
生命は行く川のごとく流れの中にあり、
私たちが食べ続けなければならない理由は、
この流れを止めないためなのだ。
そして、さらに重要なことは、
この分子の流れは、流れながらも全体として
秩序を維持するため相五に関係性を保っている
ということだった。
シェーンハイマーは、この生命の特異的な在りように
「動的な平衡」という素敵な名前をつけた。


少々、難解な表現だが、要は、
人間の臓器や組織はプラモデルのパーツのように
静的なものではなく、
臓器や組織を構成する分子のレベルで、
常に入れ替えが起こっているということだ。
食べた食物はあっという間に、
分子のレベル、あるいはそれ以下のレベルまで
分解され、臓器や組織を構成する分子と絶え間なく
入れ替わっているといことだ。
分子や原子のレベルでは、
私たちの身体は、
数日間のうちに入れ替わっていることになる。


シェーンハイマーの「動的な平衡」が真実ならば、
機械的生命観は意味をなさないことになる。
機械的生命観が意味をなさないのであれば、
西洋医学だけで医療を論じることはできないはずだ。


こらからの医療は、、
西洋医学東洋医学のようなホリスティックな観点に立った
統合医療が必要なのだと思う。
その意味でも、
西洋医学オンリーの日本の医学界に、
新谷博士のような異端の医師が必要だ。
「病気にならない生き方」がベストセラーになったのは、
時代が必要としているからなのだろう。