相反する価値観

今週のニューズウィークに、売上高や利益の拡大と
CSR(社会的責任)の両面から格付けした世界企業の
ランキングが掲載されています。
現実的な利益の追及と社会的責任(利益を超えた目的)は、
2つの相反する価値観です。


会社の責任は現実的な利益を追求することであるという
価値観をもつ市場原理主義者は、CSRについてこのように
考えています。
「企業の唯一の責任は株主のために利益を上げること。
経営者が勝手に『社会のため』と思い込んだことに資金を
使うのは、他人の金を使い込むことにほかならない。」
ある一面では正論です。


CSR推進派の人たちも、企業倫理や公正な取引に大いに
関心がある一方で、実際の消費活動においては、少々高い
お金を払って、「クリーン」な製品や「公正」な製品だけを
買っているかというとそうではない。


どちらかに極端に偏った価値観では、もうやっていけない。
つまり、現実的な利益の追求に社会的な貢献という考え方を
融合させることができる会社が、これからの生き残りの条件
になるわけですね。


以前、このブログで「ナイキの不買運動」を取り上げましたが、
そのナイキは、今回、58位にランキングされています。
ちなみに、昨年は102位でした。
ナイキは、今年5月、衝撃的なCSR報告書を発表しています。
ナイキ・ブランドのシューズや衣料を作る7000以上の
下請け工場の名前と所在地を公表したのです。これは、普通、
「企業秘密」ですよね。途上国での「搾取」を監視する
人権団体や労働組合も、「画期的」と称賛したそうです。
そして、現実的な利益の追求については、CSRのために
余分なお金を払う消費者をターゲットに、高い収益性、
成長性をあげています。
かつて、「搾取」のシンボルであったナイキが、「人権擁護」
に真剣に取り組む会社に変化し、そのブランド価値をあげる
ことで、時代の流れに適応したのです。
ナイキが、このような会社に変わることができた背景には、
全米に広がった不買運動があったことを忘れてはいけないと思います。
消費者は、時に優秀な資本市場のウォッチャーになれるのです。


ビジョナリー・カンパニーの、必須条件の1つに、
『「ORの抑圧」をはねのけ、「ANDの才能」を活かす』
というのがありました。AかBのどちらかを選ぶのではなく、
AとBの両方を手に入れる方法を見つけ出し、その能力を
活かすということです。
F・スコット・フィッツジェラルドは言っています。
「一流の知性と言えるかどうかは、2つの相反する考え方を
同時に受け入れながら、それぞれの機能を発揮させる能力
があるかどうかで判断される。」
まさに、会社にも、個人にも、こういった知性が必要な時代が
やってきたわけですね。