エネループの三洋電機

今月、1947年創業以来、60年間続いてきた
三洋電機世襲経営に幕が下りた。


三洋電機は、ゴールドマン・サックス大和証券SMBC
三井住友銀行の金融3社から3000億円の
金融支援を受け、再建中であるが、
迷走状態に陥っている。
ほぼ3期連続赤字が確定的である上に、
2月に発覚した過年度決算を巡る不正会計問題もからみ、
金融3社に追放される形で、
4月1日付けで、創業家3代目の
井植敏雅社長が辞任したのである。
敏雅氏の実父である井植敏最高顧問も退任。
プロパーの佐野清一郎執行役員が、
社長に昇格する人事が発表された。


世襲経営に幕を下ろさなければならなくなった
そもそもの原因は、
井植家が、“血族の経営”にこだわったことにある。


井植敏氏は、
2002年に幹部候補の新卒採用制度を始め、
国内外の枢要な部署を経験させるなど、
帝王学を授けて、
将来の幹部候補を育てようとした。
外部の血を入れようとの試みだ。
しかし、結局は、長男の敏雅氏を
社長に据えてしまった。


変わらない世襲路線の中で、
実力ある役員や幹部は次々に退任。
残ったのは、最高実力者である敏氏の
イエスマンばかりとなってしまった。
危機感の薄いぬるま湯の経営が続く中、
金融や家電、半導体などの不振事業の縮小・撤退が遅れ、
現在のような事態を招いてしまったのである。


そんな三洋電機ではあるが、
私は個人的に、三洋電機の商品が好きだ。
特に気に入っているのが、「エネループ」という
“使い捨てない乾電池”である。
電流を使い切っても、専用の充電器で充電すれば、
繰り返し1000回使える電池なのである。


二次電池(充電式電池)の欠点は、
時間が経つと自然に放電してしまい、
フル充電しても残存率は半年で75%、
1年後に数%になってしまうことである。
これでは、リモコンや時計といった長期間使用の
製品には対応できない。


三洋電機はこの問題を解決し、
半年後で90%、1年後で85%の残存率を
維持することに成功した。


優れた商品性能に加え、
エコを全面に打ち出したマーケティング活動も
エネループがヒットした一因である。
三洋電機は、エネループマーケティングにおいて、
自己放電の抑制という製品特性をアピールするのではなく、
1000回繰り返し使えるという
耐久性や資源性をアピールした。
1本のエネループと1000本の乾電池を
並べて対比したポスターは、
環境への配慮を強烈に視覚に訴えている。


さらに、パッケージが美しい。
水をたたえた美しい地球を連想させる
プルーのグラデーションは、
無機的な電池のパッケージとは一線を画している。


さらに、コストの面でもお徳。
単3・単4兼用充電器のメーカー希望小売価格は、
2940円。
しかし、1000回繰り返し使えるので、
1回当たりのコストは約4円。
充電時の電気代は1回当たり約0.2円。
これは、普通の乾電池を買うよりも安い。


この商品のコンセプトは、
主婦層を中心とする女性の心をがっちりつかんだ。


皮肉なことに、このエネループは、
3月19日付けで退任した野中ともよ会長が提唱した
三洋電機の新ビジョン「Think GAIA]
の商品第一弾として誕生した商品だ。


野中ともよ氏は、2002年に井植敏氏に招かれて
社外取締役に就任した。
会長就任直後に開いた再建計画の発表会見で、
野中氏は、「地球との共生」というビジョンを掲げ、
環境問題の重要性に時間を割いてスピーチしていた。
当時の三洋電機は、
経営上の緊急事態に直面しており、
その足元の経営状態と経営ビジョンとのギャップに
報道陣からは失笑すら漏れたという。
三洋電機の再建が軌道に乗ったところで、
このビジョンが示されればよかったのに・・・。
と思わずにはいられない。


三洋電機は、
高い技術力を持った優秀な企業なのだから、
一刻も早く、経営を軌道に乗せて、
環境に優しい製品を、どんどん世に送り出して
ほしいものである。